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退職の手続きを進めていたら「競業避止義務の誓約書」に署名を求められた。あるいは、入社時に書いた書類の中にその一文があったことを、転職先を同業に決めてから思い出した。
こうしたときに知っておきたいのは、署名したという事実だけでは、退職後の転職が制限されるとは限らないということだ。裁判で見られているのは、誓約書があるかどうかではなく、その中身が合理的かどうかのほうにある。何を基準に判断されるのか、第二新卒の立場では何が効きやすいのかを順に整理する。
- 退職後の転職先を選ぶ自由が原則で、競業避止の特約は例外にあたる
- 誓約書に署名していても、内容が広すぎれば効力が認められないことがある
- 判断は6つの基準の総合考慮。第二新卒は「地位」と「守るべき利益」で有利になりやすい
- ただし顧客名簿やデータの持ち出しは競業避止とは別問題で、こちらは明確にやってはいけない
競業避止義務は、在職中と退職後で意味が変わる
在職中は当然に負う義務だが、退職後は特約がなければ原則として制限されない。
在職中は、労働契約に付随する義務として、会社と競合する行為を控えることが求められる。副業で同業の仕事を請け負う、在職しながら競合を立ち上げるといった行為がこれにあたる。
誓約書を書いた覚えがなくても、就業規則に競業避止の条項が置かれていることがある。退職を考え始めた段階で、就業規則のどこに何と書かれているかを一度確認しておくと、後から慌てずに済む。写しをもらえるかどうかも含めて、在職中のほうが確かめやすい。
一方で退職後は前提が変わる。どこで働くかを選ぶ自由が原則で、これを制限するには誓約書や就業規則による特約が必要になる。つまり退職後の話は、義務が当然にあるのではなく、特約によって例外的に負うものという順序で考える。
署名していても、そのまま効力が認められるとは限らない
争いになったとき見られるのは署名の有無ではなく、制限の中身が合理的かどうか。
「同業他社への転職を一切禁止する」「期間の定めがない」といった広すぎる内容は、働く側の不利益が大きすぎるとして効力が否定される方向に働く。会社が用意した書式に署名しただけで、あらゆる転職が封じられるわけではない。
逆に、守るべき情報に実際に触れていた人が、限られた期間・限られた範囲で制限を受け、その見返りも用意されている場合は、合理的だと判断されやすくなる。
ここで言う代償措置とは、制限を受ける見返りのことを指す。競業避止の手当が毎月支払われていた、退職金が上乗せされていた、といった事情があると、会社側の主張は通りやすくなる。何の見返りもないまま広い範囲を禁じる書式は、その分だけ弱くなる。
有効性を判断する6つの基準
経済産業省が判例を整理した6項目。どれか1つで決まるのではなく、総合して見られる。
争いになったときに裁判所が見ている観点は、おおむね次の6つに整理されている。自分の誓約書がどこに当てはまるかを確かめる材料になる。
| 基準 | 何を見られるか |
|---|---|
| 守るべき企業の利益 | 営業秘密や独自のノウハウなど、保護に値する情報が実際にあるか |
| 従業員の地位 | その情報に触れられる立場にいたか。役職や職務内容で見られる |
| 地域的な限定 | 対象となる地域が絞られているか。限定がないと不利に働く |
| 存続期間 | 退職後どれだけの期間か。長くなるほど認められにくくなる |
| 禁止行為の範囲 | 同業すべてか、特定の業務や顧客に絞られているか |
| 代償措置 | 制限の見返りとなる手当や退職金の上乗せがあったか |
※ 表は横にスクロールできます
経済産業省が示している契約書の例では、期間を退職後6か月としている。ただしこれは目安であって、6か月なら必ず有効という意味ではない。
6つのうち1つでも欠けたら無効、という単純な仕組みではない。たとえば期間が2年と長めでも、対象が特定の競合数社に絞られ、相応の手当が出ていれば認められることがある。逆に期間が半年でも、範囲が「同業すべて」で見返りが何もなければ厳しく見られる。
第二新卒の立場で効きやすいのは最初の2つ
保護に値する情報に実際に触れていたか、そこに近い地位だったか。ここで差がつく。
守るべき利益に触れていたか
入社2〜3年目で、公開されている資料や社内の一般的な手順しか扱っていなかったのなら、会社が守るべき秘密を持ち出したことにはなりにくい。逆に、開発中の仕様や主要顧客の取引条件を任されていた場合は話が変わる。
会社での地位
部下を持たない一般社員と、事業判断に関わる立場とでは、同じ誓約書でも重みが違う。若手に一律で署名させている書式は、全員に同じ強さで効くわけではない。
ただしこれは「第二新卒なら無関係」という意味ではない。扱っていた情報の中身次第なので、自分が何に触れていたかを一度書き出してみるとよい。
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競業避止とは別に、確実に避けるべきこと
データの持ち出しと同僚の引き抜きは、誓約書の有効性とは切り離して問題になる。
顧客名簿や資料を持ち出さない
たとえ競業避止の特約が無効だったとしても、営業秘密にあたるデータを持ち出せばそれ自体が別の問題になる。個人の端末に業務ファイルを残したまま退職するのも避けたい。返却と削除は最終出社日までに終わらせる。
判断に迷いやすいのが、頭の中に残った知識と、持ち出したデータの線引きだ。仕事を通じて身につけた経験や進め方は自分のものとして次の職場で使える。一方で、ファイルや名簿として持ち出したものは別扱いになる。
前職の同僚を組織的に誘わない
個人的に近況を話すこととは別に、計画的に人を引き抜く行為はトラブルになりやすい。転職先から声をかけてほしいと頼まれても、在職中の同僚への働きかけは慎重に扱う。
在職中に競合の選考を受けること自体
選考を受ける行為そのものが直ちに問題になるわけではない。ただし就業時間中に面接を入れる、会社の設備を使って応募する、といった進め方は避ける。
退職時に誓約書を求められたときの進め方
その場で署名を迫られても、内容を読む時間をもらってよい。
期間と範囲がどう書かれているかを見る
確認したいのは2点だけでよい。何年間か、どこまでを禁止しているか。「期間の定めなし」「同業他社への就職を一切禁ずる」といった書き方なら、そのまま署名する前に一度持ち帰る。
その場で読む時間が取れないなら、「内容を確認してから提出します」と伝えて持ち帰ってよい。退職手続きの流れの中で渡されると断りにくいが、署名を急がせる理由は本来ない。
なお、誓約書の写しは自分でも1部持っておきたい。手元に無いまま記憶で判断すると、期間や範囲を実際より広く思い込みやすい。
署名を断ったらどうなるか
退職そのものは、誓約書への署名とは関係なく成立する。署名しないことを理由に退職を認めない、離職票を出さないといった対応は、本来の手続きから外れている。
すでに署名済みで転職先が同業のとき
過去に署名した事実は消せないが、それで転職が自動的に違反になるわけではない。前に挙げた6つの基準に照らして、自分の状況がどこに当たるかを整理し、不安が残るなら弁護士に個別に相談する。転職先の人事にも、誓約書の存在を隠さず伝えておくほうが後々の食い違いを防げる。
よくある質問
Q1. 誓約書に署名していなければ、同業に転職しても問題ありませんか?
A. 退職後の転職先は原則として自由に選べます。ただし就業規則に競業避止の定めが置かれていることもあるので、規則の該当箇所は確認しておくと安心です。
Q2. 会社から警告の連絡が来たらどうすればよいですか?
A. その場で結論を返さず、どの条項のどの行為が問題だとされているのかを書面で示してもらってください。そのうえで弁護士や労働局の相談窓口に、誓約書の写しを持って相談するのが確実です。
Q3. 転職先の面接で誓約書のことを聞かれたら?
A. 事実をそのまま伝えて構いません。隠して入社したあとに発覚するほうが、会社との関係を損ないます。企業側も同種の書面を扱い慣れているので、内容を見て判断してくれます。
まとめ
退職後にどこで働くかは、本人が選べるのが原則だ。競業避止の誓約書はその例外を作るものなので、内容が合理的な範囲に収まっているかが問われる。
- 在職中は当然に負う義務、退職後は特約があって初めて生じるもの
- 署名の有無ではなく、制限の中身が合理的かどうかで判断される
- 見られるのは利益・地位・地域・期間・範囲・代償措置の6つ
- 第二新卒は「触れていた情報」と「地位」で有利に働きやすい
- データの持ち出しと同僚の引き抜きは、これとは別に避ける
- 期間の定めがない書式は、署名の前に一度持ち帰る
まずは手元の誓約書か就業規則を開いて、期間と禁止範囲がどう書かれているかを確かめるところから始めてほしい。
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